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短編小説「なぜ世界はやさしく狂っているのかな」

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なぜ世界はやさしく狂っているのかな


           荒木スミシ


 なんであんなことをしたんだっけ?

 今となっては、なんであんな馬鹿げたことをしたのか、
思い出せないくらい遠い昔の話だ。
何せ、僕の隣にはまだ22歳の君がいたんだものな。
時は流れるってやつだ。
ほんとに時の流れというのは怖いな。

 まず最初に断っておかなくちゃいけないことは、
僕たちは「変態カップル」じゃないってこと。
たぶん。
たぶん「変態カップル」という類には入らない、
ごくノーマルなつきあい方をしていた少し中年の男と
まだ若い女のカップルだ。
その頃の僕は35歳くらいだったと思う。

 さて、困ったな。何から話そうか。

 そうだ。
まずは喧嘩だ。
そうその夜僕たちはひどい喧嘩をしたわけだけど、
その理由がなんだったのか悪いけれどまるで思い出せない。
たぶん、多くのカップルの喧嘩がそうであるようにひどく些細なことが
原因で喧嘩が始まったわけだ。
瞬間湯沸かし器みたいに。
ティファールのティーポッドみたいに。

 彼女はとても怒っていた。
何度も僕の頬を叩いたし、腹を蹴ったし、僕も暴力を使ったな。
言葉もひどかった。世界じゅうの罵詈雑言をお互いにぶつけあい、
傷つけあった。
部屋に飾ってあった大きな絵も僕が床に投げつけて壊したし、
彼女も食事中の皿を僕に目がけてなげつけた。

 たぶん、もうこの恋愛は終わりかけていたんだね。
そんなブルーな気持ちと、不思議ないらいらがとまらなかった。
愛していたのか、と問われれば、なんだかうまく答えられないし、
お互いがお互いの存在に慣れすぎて、新鮮さはもうなかったな。
なんというか、僕たちはお互い同じ気持ちで付き合っていたんじゃないかな。

 そんなにこの恋は続かない。
たぶん結婚とかには実らない恋。
僕は若くて奇麗な彼女とただ火遊びがしたかっただけだし、
彼女も同じようなものだったろうな。
多くの中年のはじめ頃の男とまだ若い女の組み合わせが
起こす始まりと終わり。
そんな感じの2人だった。

 だからどちらかが、終わり、を宣言すれば、もうそこで、
終わり、だとわかっていた。
その夜の喧嘩は、その終わりの宣言を言い出すのをお互い
押し付けるように、傷つけあった。

 喧嘩が始まったのが早い夕食の時で、僕の部屋に彼女がやってきていた。
セックスは夕暮れにもう終わり、身体はだるくて、少し眠い。
軽くお酒も飲んでいた。

「ねぇ、どうしていつも最近はこうなるの?」

「わからない。もうお互いが慣れてしまったんだよ」

「何に?」

「存在に」

「だってそんなことはよくあることじゃない。軽い倦怠期なんて、どんなカップルにも訪れるわ」

「もともと僕たちはそんなに続く運命みたいなものが足りないのかもしれないね」

「短い恋愛だってこと?」

「うん」

「それを続くように試してみようと言い始めたのはあなたじゃない。
あなたはずるい。ずるい。ずるい」

「ずるいのは君の方だよ」

「どこが?」

「なんだか僕はずっと試されているみたいだ。我慢するゲームみたいだ。
こんな我が儘も許してくれる? っていつも、君に優しい男を演技させられているみたいだ」

 そう僕が言うと、彼女は静かに泣き始めた。
冷たいキッチンの床に座り込み、溜め息をつきながら泣いた。
もう彼女とは今日で最後かもしれないな、と思いつつ、僕も冷たい床に座った。

「最後だね」

「最後の夜にしよう」

 と、お互いが同時に口にして、彼女がもっと泣いた。

 一通り悲しみの儀式が終わると、彼女は信じられないことを言った。

「ねぇ、最後の夜だもの。アレをしない? 私、あなたとのお別れにとても弾けたいの。
狂いたいの。狂ったことをしたいの」

 彼女の言うアレ、とは前に冗談言っていたお互いの服を交換してみるという遊びのことだった。
ほんの思いつきだ。
彼女が男性の服を着て、僕が女性の服を着て、街を歩いてみるのだ。
そう、このへんてこな愛のアートな行動、というところかな。

 僕たちはそれを実行に移した。
僕はフォーマルなスーツを彼女に着せて、彼女は笑いながら僕に赤い細かな花柄のワンピースを着せた。
僕のすね毛が汚いと彼女は言った。
そしてガニ股で歩くのも醜い。
ヒールを履くとさらに滑稽さは増して、彼女は最後に僕の唇に口紅のべったりと塗った。

 彼女も頭髪をムースでオールバックに固め、顎にマジックで無数の無精髭を描いた。
もちろんお互いに下着も替えている。
その温もりや居心地の悪さが伝わってくる。
なあ、どうして女性のパンティーはこんなにも小さいのだ、と僕は少し不機嫌になる。

 そんな僕の手を引いて、彼女はマンションを出て、一般道へと出た。
ここは都会でもなければ、田舎でもないという地方だ。
みんなにこの格好を見てもらうには、駅前の商店街が一番だ。

 僕たちは様々なネオンライトを浴びながら、夜の商店街を歩いた。
何人かの若い女性やカップルにくすくすと笑われた。
その冷たい視線を浴びる。
何かの珍しいものを見つけたように女子高生やサラリーマンがこっそりと
携帯で僕たちを写真に撮る。
それが僕たちの「作品の残し方」だ。

「恥ずかしいカップルがここにいます」

 彼女はそう言うと小さく笑った。


 僕たちは四時間夜の商店街を歩いて、くたくたになってマンションの部屋に戻った。
そして力尽きるように、その入れ替わった服装のままリビングの床で抱き合って眠った。

 僕の汗が彼女の下着やワンピースを汚し、彼女の汗が僕のワイシャツを汚していく。

 そんな不思議な夜のことを彼女はもう忘れているだろうな。
いやもう彼女は絶対にこの夜のことを覚えてはいない。
思い出せるはずがないのだ。

 この変態の夜のことを、覚えているのは、僕の記憶。
そしてその夜の僕たちを見た通行人たちの記憶。
その証拠の恥ずかしい携帯で撮られた写真。
一瞬のバカげたすれ違い。
冷たい視線。

 時が経った今、どうしてこんな夜更けにふと彼女のことを思い出したのか、わからない。

 そんなに愛していなかったんだよ。
たぶん火遊びだったんだよね。
お互い。
そうに違いないよな。
君も。

 うまく眠れない。
うまく眠れないな。

 あの夜から彼女とは会っていない。

 共通の友達から聞いたのは、彼女はあの数年後、事故にあったということだった。
そう事故死。
150キロの車に轢かれた壮絶な事故死。
血まみれの最期。
だからもうこの世界から彼女はいないのだ。

 ねぇ、君。
世界はやさしく狂っているのかな。






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[ 2013/07/15 ] 短編小説 | TB(0) | CM(0)

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